昔は、一般の舟を造るにしても、舟大工がこつこつ手をかけて造り上げたものです。漁舟の標準は幅六尺(一メートル八〇)長さ二十八尺、(八メートル五〇)という小さなものでした。

それでも、小さな漁村で新しい舟ができあがり、舟おろしをするということは、施主にとっても舟大工にとっても晴れがましいことでした。 舟おろしの前には、必ず舟小屋で《舟おろし》の前祝いがあります。舟の左舷に「舟魂(ふなだま)さん」を祀り、それに玄米八合と角樽に入った酒八合、鮮魚、荒塩などを舟魂さんに供えて大漁を祈ります。

いよいよ舟を浜へ引き降ろすと、大漁旗や国旗で満艦飾に飾りたて、餅まき用の餅を積み込んで、施主や舟大工の棟梁が、紋付き羽織りで乗り込み沖へ漕ぎだします。

この頃になると、浜には大勢の人達が集まって餅まきを待っています。沖に出た舟は、くるくる三回まわって浜辺まで戻って来て、いよいよ餅撒きが始まるのです。餅まきの行事が終わると施主や棟梁たちが下船して、代わりに若者たちが舟に乗り込み沖合へ出ていきます。彼らは、そこで舟を左右に揺すって左舷側から舟をひっくり返し、再び元に戻します。そして今度は右からと、幾度も同じことを繰り返すのです。これが当時の一般的な「舟おろし」の儀式で、このときに唄う歌が、

「地六、天一、おもて見合わせ、とも、仕合わせ 取り舵(左へ)ごっそり、面舵(右へ)ごっそり」というのです。

注 ① 舟魂さんというのは二〇センチ位の角材をくりぬいて、そこへ紙で作った人形、サイコロを二つ合わせたもの、それに、十二銭を入れ、くり抜いた穴に、元どうりに木の蓋を打ち込んで密封したものです。

注 ②サイコロの一の目を上にすると、下側は六なので、上下足すと七。サイコロはすべて裏表足して七となるので、「取舵」で魚をごっそり(五)とって「面舵」でにっこり(二)笑うという縁起をかついだものでしょう。

注 ③十二銭というのは、船旅に出てお金がなくなったとき使う予備金だと言われています。